モラベックのパラドックスとは?AIが人間になれない“本当の理由”

モラベックのパラドックス - AIはなぜ「体で覚える」のが苦手?人間との違いをゆるっと考察してみた 思考実験

最近、「モラベックのパラドックス」って言葉を知りました。
意味をざっくり言うと、AIは論理的なことは得意だけど、人間が無意識にやってることは苦手という話です。

たとえば囲碁やチェス。
AIは圧倒的な強さを見せますよね。
でも、「お箸で豆をつかんで」と言われると、とたんに動きがぎこちなくなるらしいです。

なんとなく分かります。

ロボットって人間的な動きを再現するのにすごい苦労している印象ありますもんね。

人間って、練習を通して体が覚えるというプロセスがあります。
これをAIがやろうとすると、どうもうまくいかない。

実際、人間とAIだと仕組みがどう違うんでしょうか。

今回はこのモラベックのパラドックスをきっかけに、
わたし自身が考えたことや感じたことを、少しずつまとめてみようと思います。

テーマはこんな感じです:

  • なぜAIは体で覚えることが苦手なのか?
  • 人間の脳はどうやって動きを覚えるのか?
  • AIにも「体で覚える未来」がくるのか?

あくまで素人視点ですが、ゆるっと考えてみました。

モラベックのパラドックス – AIはなぜ「お箸を持つこと」が苦手なのか?

囲碁はプロ級なのに?AIがお箸でつまずく理由

AIは論理的な処理が得意です。
それはよく聞くし、囲碁やチェスでの活躍を見ても納得できます。

ただ、「お箸を使ってみて」と言うと、急にうまくいかないらしいんです。
実は、これこそがモラベックのパラドックスの正体です。

人間が毎日何気なくやっていること。
実はそれが、AIにとってはすごく難しい。

これは1980年代に、ハンス・モラベックという研究者たちが指摘したことから名づけられました。

モラベック本人は、こんなふうに書いています。

チェッカーをプレイさせたり、知能テストを解かせたりするよりも、1歳児のような動きや感覚を持たせる方が、ずっと難しいか、もしくは不可能かもしれない

普通に考えると、難しいこと=AI向き、簡単なこと=人間向き、って思いがちですよね。でも実は、その逆だったというのが、このパラドックスの面白いところなんです。

【表:AIの得意・苦手なこと】

スキルの種類人間の難易度AIの難易度
チェスを指す難しい得意
数式を解く難しい得意
お箸で豆をつかむ簡単苦手
自転車のバランスをとる簡単超苦手
表情を読み取る簡単苦手

「人間のやってることって、本当はすごく複雑なのかも」と思いました。
いつも無意識にやっている動作が、実はとても精巧なバランスの上に成り立ってるんですね。
AIが苦手とするのも、その奥深さゆえかもしれません。

人間はどうして「体で覚える」ことができるのか

お箸の使い方を覚えたときのことを思い出してみてください。
最初は持ち方もぎこちなくて、うまくつかめなかったと思います。

でも、何度かやるうちに、自然と指が動くようになります。
気づけば、頭で考える前に手が先に動くようになっていたりします。

これが「体で覚える」という感覚なんだと思います。
そして、この感覚って、脳の中の「小脳」や「大脳基底核」って部分が支えてるらしい。

人間は失敗しながら学んで、少しずつ動きを調整していきます。
やがて、自動的にスムーズに動けるようになっていく。
改めて考えるとほんとにすごい能力だと感じます。

地味に見えるけど、実はすごく高度な計算が脳の中で行われているのかもしれません。

AIが同じことをやろうとすると何が起きる?

AIにも学習機能があります。
ただし、人間とはかなり違うやり方です。

たとえば「お箸を持って豆をつかむ」だけでも、

  • 指の角度
  • 力の入れ方
  • 手の位置
  • 豆の形や向き

これらすべてを数値として処理し、
動くたびにゼロから計算し直す必要があります。

しかも、少し状況が変わるとまた最初からやり直し。
こう聞くだけでも、かなり大変そうに感じます。

人間の場合は、感覚でだんだん最適な動きに近づいていきます。
でもAIは、「毎回ベストな答えを計算し直す」という方向でアプローチしているみたいです。

この違いが、「体で覚える」ことを難しくしている要因のひとつかもしれません。

AIの計算は「直列処理」が基本? – 人間の脳との違い

脳はマルチタスクの達人?超並列処理のすごさ

人間の脳は、いろんなことを同時に処理できるんですよね。

たとえば、

  • 歩きながら音を聞く
  • 周囲を見ながら考えごとをする
  • 手を動かしながら会話する

こういうことって、わたしたちは自然にやってしまっています。
全部を順番に処理しているわけじゃなく、感覚的に同時進行してる感じがあります。

これがいわゆる「並列処理」ってやつなんですね。

脳の中にはたくさんの神経細胞があって、
それらが一斉に情報をやりとりしてくれるおかげで、思考も動作もなめらかにつながります。

AIはなんで瞬時に反応できないの?

ここで、AIの話に戻ります。
AIも計算はめちゃくちゃ速いです。

ただ、現段階では「直列処理」が基本みたいです。
つまり、ひとつずつ順番に処理していくスタイルです。

最近はGPUの登場で並列っぽい処理もできるようになってきました。
ただ、人間みたいに「複数の動きを直感的に切り替える」のは、まだうまくいかないようです。

たとえば、

  • 転びそうになったときに、足をサッと出す
  • 飛んできたボールを反射的に避ける

人間なら、体が勝手に動いてくれるような反応でも、
AIの場合は、それをいちいち計算しているので、タイミングが少し遅れてしまうことがあります。

精度の高さはあるけれど、その場での反応力という意味では、まだ発展途上な印象を受けます。

ノイマンボトルネック – AIが「動作」を苦手とする最大の壁

ノイマンボトルネックって?AIのもどかしさの正体

ノイマンボトルネックとは?

直列処理から完全に脱却できていないAIにとって壁になっているのが「ノイマンボトルネック」です。
ちょっと聞き慣れないですが、コンピュータの構造に関係している言葉です。

ざっくり説明すると、こんな感じです。

  • CPU(計算する場所)
  • メモリ(データを置く場所)

この2つが別々の場所にあって、
間でデータをやりとりする必要があります。

でも、ここで問題が起きます。
どんなにCPUが高速でも、メモリとのやりとりが遅いと全体の処理が追いつかなくなるんです。

わたしの感覚でいうと、
「アイデアがすごい勢いで浮かぶのに、ノートに書く手が追いつかない」ときにちょっと似てるかもしれません。

コンピュータも同じで、
「もっと計算したいのに、メモリのやりとりがボトルネックになる」ってことが起きるんですね。

AIもこの構造に縛られているので、どうしても動作のリアルタイム性に限界が出てきます。

学生時代にこの問題を教授が「ノイマンブロック」って言っていたような気がしたのですが、わたしの聞き間違いだったのかもしれません。

自転車でバランスをとる、その一瞬がAIには難しい理由

たとえば、人間が自転車でバランスを崩した瞬間どうなるか。
体が自然に足を出して、転ばずに済んだ…こういう風になります。

こういう反応って、判断が一瞬でも遅れると間に合わないですよね。
身体が「考える前に動いてくれる」から助かってる感じです。

では、これをAIがやろうとしたらどうなるでしょうか?
ここで流れをざっくり整理してみます。

  1. センサーで「ヤバい状況」を察知
  2. データをメモリに送信
  3. CPUで「今どうすればいいか」を計算
  4. 指令を出して動作を実行

この一連の処理が終わるまでに時間がかかると、その間に自転車はもう倒れてしまってるかもしれません。

どんなに高性能で高度な計算ができたとしても物理的な処理が遅れると、こういう咄嗟に回避しないといけないものは間に合わないってことですよね。

人間にとっては「無意識に体が動く」ようなことでも、
AIにとっては「いくつもの処理を順番にこなさないといけない動作」なんです。

この違いが、AIが「動き」に対して苦手意識を持ってしまう原因のひとつなのかもしれません。

わたし達は、一度自転車に乗れるようになると、それ以降は特に意識しないで自然と乗れるようになります。

あの感覚をAIが持てるようになるには、まだちょっと時間がかかるのかも…。

量子コンピュータで「人間っぽさ」に近づける?

じゃあ、AIはこの先どう進化していくんでしょうか?
ここで出てくるのが、「量子コンピュータ」という新しい技術です。

普通のコンピュータは、

処理の特徴内容
処理方法0か1のどちらかで動作
情報の扱い方順番に処理(直列処理)

一方、量子コンピュータは、

処理の特徴内容
処理方法0でもあり1でもある状態で同時に計算できる
情報の扱い方複数の情報を一気に処理する(並列的に)

この仕組みをAIに取り入れたら、状況が一変するかもしれません。
AIが「一瞬でいろんなことを同時に判断する」ことが、現実になる可能性もあります。

こうなれば、これまでネックになっていた「動きのタイミング」も、改善されるかもしれません。

もちろん、すぐに実用化されるわけではなさそうです。
技術としてはまだ開発途中とのことですが、ここには大きな可能性があると感じました。

AIが「体で覚える」未来は来るのか?

感覚を持つAI?転びながら学ぶロボットたち

最近の研究では、AIが「自分の動きをフィードバックから調整する」仕組みが進んでいるそうです。
たとえば、転びながら学ぶロボット。
最初はふらついていたのに、何度も動きを繰り返すことでバランスの取り方を少しずつ見つけていく。

こうしたAIの動作学習では、

  • 動いてみる
  • 状況を読み取る
  • 結果をもとに動きを変える

というサイクルが回り始めています。
感覚的な学びとはちょっと違うけれど、「経験を蓄積して改善していく」点では近いものがあるように感じました。

ただの計算装置というより、成長していく存在ですね。どんどん人間っぽくなっていくような‥。

もしAIが「本気を出したら」どうなるのか?

まだ本気じゃない?AIのポテンシャルがこわい

ここまで見てきて感じたのは、今のAIってまだ不完全なんですよね。
ノイマンボトルネックのような物理的な制約もあるし、
人間のような並列処理も得意じゃない。

でも、そんな状態でもすでに私たちの生活に入り込んでる。
よく考えると、それってかなり衝撃的なことです。

逆に言えば、もしこれらの制約がすべてなくなったら?
AIが持っているポテンシャルを全部出せるようになったら?

空想っぽく聞こえるかもしれませんが、
AIが「考えるより先に動く」ようなスピード感を持てたら、
人間との区別はつかなくなるかもです。

2045年にAIシンギュラリティは訪れるのか?という議論もあります。

現時点で、既にAIの凄さがを驚異的に感じることがあるので、まだ本気じゃないって考えるとちょっと怖いですね。本当に想像できないくらいの進化を遂げていくのかもしれません。

※余談ですが、AI シンギュラリティについては以下の記事で詳しく考察しています。よかったらご覧になってください。AIが今後どうやって進化していくかを分かりやすく解説しています。

共存か競争か?AIと一緒に生きる時代へ

AIが本気を出したとき、社会はどう変わるのでしょうか。
もちろん便利な部分はたくさんあります。

  • 病気を予測してくれる
  • 危険を避ける手助けをしてくれる
  • 判断をサポートしてくれる

でも、それだけでは終わらない気がします。
もしAIの判断があまりにも速く、正確で、人間が考える前に答えを出すようになったら?
わたしたちはその便利さに頼りすぎて、「考えること」から距離を置いてしまうかもしれません。

そうなると、問われてくるのは「AIがどうなるか」ではなく、人間がどうありたいかです。
自分の意志で選ぶこと、迷うこと、考え抜くこと。
そういう人間らしさが、これから先ますます大切になっていく気がします。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


参考文献

  1. Moravec, H. (1988). Mind Children: The Future of Robot and Human Intelligence. Harvard University Press.
    https://www.hup.harvard.edu/catalog.php?isbn=9780674576186
    概要:ハンス・モラベックは、本書で人工知能とロボット工学の未来について論じ、人間の知覚や運動スキルの複雑さを強調しています。​
  2. Brooks, R. A. (1990). Elephants Don’t Play Chess. Robotics and Autonomous Systems, 6(1-2), 3-15.
    https://doi.org/10.1016/S0921-8890(05)80025-9
    概要:​ロドニー・ブルックスは、従来のAIアプローチを批判し、知覚と行動の統合の重要性を強調しています。​
  3. Pinker, S. (1994). The Language Instinct: How the Mind Creates Language. William Morrow and Company.
    https://www.harpercollins.com/products/the-language-instinct-steven-pinker
    概要:​スティーブン・ピンカーは、人間の言語能力の進化と認知科学に焦点を当て、モラベックのパラドックスに関連する議論を展開しています。

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