脳はどうやって空気を読むのか? 社会的メタ認知とAIに応用できる予測力

脳はどうやって空気を読むのか? 社会的メタ認知とAIに応用できる予測力 AI会話

本記事では、理化学研究所の発表をもとに「脳が空気を読む仕組み」をやさしく解説し、それがAIの進化にどうつながるのかを考えていきます。

理化学研究所は2025年1月20日、
「社会的メタ認知」という概念を、初めて心理学と神経科学の観点から明確に定義しました。

これはどういうことかというと、
たとえば、友だちが難しいクイズに挑戦しているとします。

「この問題、自分ならどう感じるかな…」と想像して、
そのうえで「じゃあ、あの子もこう考えるかも」と思う。
こうやって自分の感覚をもとに相手の気持ちを推測するような心の動きに注目したのが、今回の研究です。

2024年の研究では、他人がどう動くかを先読みして判断に活かす脳の仕組みがわかりました。
今回の研究はそれをさらに深めて、「自分を通して相手の頭の中を想像する」という働きに注目しています。

このしくみは「社会的メタ認知」と呼ばれ、
私たちの脳がどうやってそんな思いやりの推理をしているのかが、明らかになってきたというわけです。

今回はこの研究内容を、わかりやすく読み解いていきます。

他人の選択を考えるって、実はみんなやってる?

ランチの選び方にも?私たちの“他人予測”スキル

たとえば、お昼に友だちとランチに行くとします。
「今日はイタリアンかな?」
「でもあの子、最近ラーメンにハマってたかも」

そんなふうに、無意識に相手の気分を想像していたりします。
そのうえで、自分が何を食べるか決めようとする。よくある流れです。

日常には、こういう「他人予測」がけっこう転がっています。

  • ゲームで相手の次の手を読むとき
  • 電車が混みそうな時間帯を避けるとき
  • 友人にプレゼントを選ぶとき

どれも「相手がどうするか」を考えて、少し先を読もうとしています。
感覚的にやっているけれど、脳の中ではなかなか複雑なことが起きているのかもしれません。

見えないのに読んでる。脳の中では何が起きてる?

他人の行動を予測する。日常では当たり前のようにやっているけれど、実は不思議です。
相手の頭の中は見えないのに、「こう動くかも」と想像して、自分の行動を決めています。

それって、よく考えるとすごいことかもしれません。

今回紹介するのは、理化学研究所の研究です。
テーマは、「他人の選択を考慮して、自分の判断に活かす脳の仕組み」

なんとなく難しそうに見えるかもですが、話の中身は意外と身近です。
「あるある」な日常を、ちょっと脳科学っぽく見ていく感じです。

ということで、次の章からは、
私たちの頭の中でどんな“予測”が行われているのか、ゆるっと探っていきます。

脳が他人の選択をどう予測しているのか?

脳は分業制?「ありそう」と「なさそう」をさばく仕組み

人の行動って、「ありそうな選択」と「なさそうな選択」の両方をイメージしていたりします。
たとえば、友人がコンビニに行くとき。

  • 「たぶん、おにぎりかな」
  • 「でも、甘いものを買うかもしれない」

そんなふうに、2つの可能性を同時に思い浮かべていることってありますよね。

今回の研究では、そうした“複数の予測”をしているときに、脳の中で分担が行われていることがわかりました。
それぞれの選択肢を、違う場所が処理してくれているようです。

予測チームはこの4人。扁桃体と前頭前野たち

脳のなかでは、こんな分業が行われています。

脳の部位担当している役割
扁桃体相手の選択の「ありそう度」を評価
後帯状皮質“ありそうな選択”に沿った判断をサポート
右背外側前頭前野“なさそうな選択”にも備えるポジション
内側前頭前野最終的な判断をまとめるまとめ役

扁桃体は、相手の行動がどれくらい確かかを感じ取ります。
「これは来そう」と思えるときに活躍している場所です。

後帯状皮質は、予測の“本命”に基づいて自分の行動を決めるときに働きます。
一方で、右背外側前頭前野は、あまり起きなさそうなパターンも一応考えておくタイプ。
備えあれば憂いなし、みたいな立ち位置です。

そして、最後にまとめ役をしてくれるのが内側前頭前野。
いろんな情報を受け取って、「じゃあ、こうしよう」と決める部分です。

予想に自信アリ?ナシ?で変わる脳のルート選び

相手の行動をどれくらい自信を持って予測できるか。
その“確信度”によって、脳の中で使われるルートが変わることもわかっています。

たとえば、相手がほぼ確実におにぎりを選ぶと思うなら、

扁桃体 → 後帯状皮質 → 内側前頭前野

というルートで判断が進みます。

でも、「もしかするとスイーツもあるかも?」と迷ったときは、

扁桃体 → 右背外側前頭前野 → 内側前頭前野

というルートも動き始めます。

自信があるときはスムーズに、ひとつの道を使って決める。
自信がないときは、複数のパターンをチェックしてから判断する。

状況に応じて、脳はルートを使い分けているというわけです。
けっこう柔軟に考えてくれているのかもしれません。

AIが他人の選択を学ぶ時代へ

AIも空気を読む?人っぽい判断のヒント

最近のAIは、いろんなことができるようになってきました。
文章を生成したり、チェスや囲碁で勝つこともできます。

ただ、人間のように“空気を読む”力については、まだまだ課題が残っています。

人間はこう考えます。

  • 相手は今どう感じているか
  • 次にどんな行動を取りそうか
  • そのうえで、自分はどう動くべきか

このように、相手の選択をざっくり予測してから、自分の行動を決めています。

今回の研究では、人間が「複数の選択肢を同時に想定し、状況に応じて使い分ける」ことがわかりました。
この力は、AIが“人っぽく”判断できるようになるためのカギになるかもしれません。

たとえば、AIがこんなふうに考えられるとします。

  • 「この人はこう動きそう」
  • 「でも、別の動きもありそうだから備えておこう」

こうした“ゆらぎ”や“予備の思考”が入ることで、AIの判断もより柔軟で人間らしいものに近づきそうです。

止まる?進む?AIが学ぶ「社会的知性」

研究によると、相手の行動に対してどれくらい確信があるかで、脳の使い方が変わるそうです。
これは、AIの判断にも応用できるかもしれません。

たとえば、自動運転のシーン。
交差点で「この車は止まる?それとも進む?」と迷うとき。

予測のバリエーションを持つことがポイントです。

状況AIの判断方法
止まりそう安全確認を優先しつつ動く
進むかもリスクを考慮して動きを待つ

ひとつの判断だけでなく、いくつかのパターンを持っておくと、より安全で柔軟に対応できます。

こうした考え方は、「社会的知性を持つAI」へのステップになりそうです。

初心者?プロ?タイプ別に考えるAIの進化法

もうひとつ注目したいのが、相手によって脳の使い方が変わるという点です。
ビギナーとエキスパートでは、脳の中で使う回路が違っていました。

このしくみ、AIにも応用できそうです。

たとえば、学習アプリやカスタマーサポートAIの場合。
相手が初心者か上級者かを見極めて、対応を切り替えるように設計できます。

対応の切り替えイメージはこんな感じです。

ユーザーのタイプAIの予測と対応
初心者自分の感覚や基本情報をもとに判断
上級者実績や過去のデータを参照して対応

こうした“相手に合わせた思考の切り替え”ができるAIなら、もっと自然で、頼れる存在になるかもしれません。

他人の頭の中を思い描く力が生む未来

無意識なのにすごい。私たちの予測脳の実力

誰かと一緒に行動するとき、つい相手の気持ちを考えることがあります。
「どう思ってるかな?」「何を選ぶかな?」と、自然と予測していたりします。

それってつまり、相手の動きを先に想像して、自分の動きもそれに合わせているということです。
無意識にやっているけれど、実はなかなかすごい仕組みです。

今回の研究で分かったのは、脳の中では次のようなことが行われているという点です。

  • 「ありそうな選択」と「なさそうな選択」を両方考える
  • どれくらい確信があるかによって判断の方法が変わる
  • それを瞬時に処理して、自分の行動に反映している

この柔軟さを、私たちはふだん当たり前のように使っています。

思考の柔らかさは、人間らしさそのもの

さらに注目したいのは、相手によって考え方を切り替えているという点です。

  • 相手が初心者なら → 自分の感覚をベースに予測
  • 相手が上級者なら → 相手の経験や実績を参考に判断

こんなふうに、状況に応じて“思考スタイル”まで変えているんです。

ただの推測というより、「この人を理解したい」という気持ちが根っこにあるのかもしれません。
だからこそ、こうした思考は、私たちの社会性の土台になっているとも考えられます。

まとめ:人を知るとAIが進化する

この研究の内容は、一見むずかしそうに見えるかもしれません。
でも、その本質はとてもシンプルです。

  • 「相手がどうするか」を考える
  • 「自分はどう動くか」を決める
  • それを、脳は自然にやっている

たしかに「予測する力」って、人間が日常的にやっていることですよね。
特に、記事の中で紹介した「車の運転」の例はすごくしっくりきました。

運転中って、常に危険を予測しています。
「もしかしたら飛び出してくるかも」とか、「この車は止まらないかも」なんてことを瞬時に判断しているんです。

でも、対話型AIにはまだこういう“予測の勘”みたいなものはありません。
そう考えると、やっぱり人間の脳ってかなり洗練されているんだなと感じます。

AIをもっと進化させるためには、人間の構造をもっと深く理解する必要がある。
だから、さまざまな研究が続けられているんですよね。
そして、その研究自体にもAIの計算能力が役立っているのは、想像に難くありません。

AIと一緒に人間の本質を探っていく。
研究が進めば進むほど、AIもまた賢くなっていく。
そんなふうに、おたがいが影響し合って進化していくような関係性が生まれてきている気がします。

そして、いつかAIは完全に人の手を離れて、自立していくかもしれません。
最近の進化スピードを見ていると、その日が来るのは、案外遠くないのかも?なんて思っています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


参考文献

  1. Miyamoto, K., Harbison, C., Tanaka, S., Saito, M., Luo, S., Matsui, S., Sankhe, P., Mahmoodi, A., Lin, M., Trudel, N., Shea, N., & Rushworth, M. F. S. (2024). Asymmetric projection of introspection reveals a behavioral and neural mechanism for interindividual social coordination. Nature Communications, 15, Article 55202.
    https://www.nature.com/articles/s41467-024-55202-0
    概要:人は「自分ならどう考えるか」をもとに他人の思考を推測することがあり、この仕組みを「社会的メタ認知」として定義。fMRIとTMSによる実験で、初心者とエキスパートに応じて脳の使われ方が異なることを明らかにし、それぞれ47野とTPJが関与することが示された。
  2. Ma, N., Harasawa, N., Ueno, K., Cheng, K., & Nakahara, H. (2024). Decision-Making with Predictions of Others’ Likely and Unlikely Choices in the Human Brain. The Journal of Neuroscience, 44(37), e2236232024.
    https://www.jneurosci.org/content/44/37/e2236232024
    概要:人は他人の「ありそうな選択」と「なさそうな選択」の両方を同時に予測しており、それぞれが異なる脳部位で処理されている。さらに予測の確かさに応じて脳内の情報ルートが切り替わり、最終的な意思決定に反映されるプロセスが明らかにされた。

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